冬の慰め

神代凌牙にとって、冬はどうにも苦手な季節であった。
「シャークなのに、変なの」
と妹は笑うが、それはただのあだ名であって、実際の人間は関係無い。鮫がいくら水温によって体温を変える変温動物だからといって、結局、寒いものは寒い。
そんな妹は氷の女王だからかなんなのか、寒さにはめっぽう強かった。双子であるというのにこの違いはいかがなものか。

そう思いながら今日も学校への道を歩く。今朝は一段と冷え込んでいて、制服のうえにコートを着込んでもまだ寒い。吐く息もあっという間に白に変わる。
少し前まではこんな日にわざわざ登校するなんてことは無かったのだが、妹が帰ってきた以上、サボるだなんてことが許されるわけがなかった。
隣を歩いている妹は寒さなんてなんのその、というように、スカートは短いまま、いつものように素足をさらけ出している。
見ているこちらまで寒くなるような光景に、思わず凌牙はコートの襟をきつくより合わせ、ため息をついた。まだまだ、学校への道は遠い。

「はい、凌牙」
そうぼんやりと考えていると、突然首元に紺色のマフラーが掛けられた。怪訝な顔をする凌牙をみて、璃緒はニッコリと笑う。
「寒がりな凌牙に、プレゼントよ」
そう言って、璃緒は凌牙の首に丁寧にマフラーを巻いていく。
「……ありがとよ」
突然の妹からのプレゼント。戸惑いながらも、凌牙はとりあえずマフラーに顔を埋めながら、感謝の言葉を述べた。
そんな凌牙を見て、璃緒はやはり微笑みながら、「サボらないでよ」と言い残して先に行ってしまった。
残された凌牙は、呆然としながらその後ろ姿を見送る。
一体なんなんだ。今日は何かある日だったか?
頭の中を検索してみても、特に何も思い浮かばなかった。
妹の行動に首を傾げながら、凌牙は残されたマフラーをみる。
一見既製品のように見えたマフラーは、よくみると編み目がやや粗く、所々ほつれているようだった。それでも几帳面に編まれていて、作り手の——璃緒の性格が伺えた。
「……まったく」
凌牙はほんの少し微笑んで、ゆっくりと歩き出す。

行く道は、もう寒くなかった。

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ものすごい季節外れ感!
即興二次小説で「冬の慰め」ってお題もらって書きました。
書きはじめた時は冬だった…もはや即興でもなんでもない
きっと璃緒ちゃんは小鳥ちゃんに編み物習って作ったんだと思う
璃緒ちゃんがマフラー渡す相手はシャークさんだけど、
きっと小鳥ちゃんは遊馬とアストラル2人分作ってくれるはず(妄想)

20140819